安藝・MAX渡辺がグッスマを語り尽くす(後編)

EPISODE 04

15周年緊急対談!
安藝・MAX渡辺が
グッスマを語り尽くす(後編)

2016. 08. 02

【MAX渡辺とマックスファクトリー】
マックスファクトリーは、1987年の設立から美少女フィギュアや合金トイなどを企画・制作をしてきた企業。ガレージキットメーカーとしてスタートした当初から現在まで数多くの製品を世に送り出している。マックスファクトリーの代表取締役 渡邊 誠(通称MAX渡辺)は、グッドスマイルカンパニー安藝と親交が深く、旧知の仲。
2008年から展開している「figma」シリーズは、マックスファクトリーが企画・開発を行い、グッドスマイルカンパニーが販売を行っており、手頃な価格とクオリティの高さから人気商品となっている。

15周年という大きな節目を迎えたグッドスマイルカンパニー。ここに至るまでにはどんな思いがあり、どんな出来事が今のグッスマを築き上げてきたのか。

その胸中を存分に語ってもらうべく、グッドスマイルカンパニー代表 安藝貴範の盟友としても知られているマックスファクトリーMAX渡辺さんとのスペシャル対談が実現しました。

共にフィギュア業界を強烈に牽引してきた二人にとって、15年のあゆみ、そして未来のあゆみはどのように映っているのでしょうか。前後編の2本でお届けします!

必要以上に関わらないグッスマとマックス

必要以上に関わらないグッスマとマックス

─グッスマとマックスファクトリーの原型師さん同士のやりとりはどうなってるんでしょう?

安藝
今同じフロアでやってるのである程度の交流はありますけど、基本は別です。流儀が違うというか、どっちかというとマックスの方がのんびり作っています。
MAX渡辺
そうかね(小声)。のんびりに見える?
安藝
のんびりです。グッスマ側の方が詰めさせられますね、早くやれ!って。
MAX渡辺
軍隊とサークルくらい違うから。

(全員笑)

─MAXさんはそこまで詰めない?

MAX渡辺
そうですね、気持ちみたいなのも大事というか。気付きみたいなのもなにかしら得て欲しいというところがあるので。僕自身が作る人なので、あまりギチギチに詰められたらツラいのがわかってしまうので、そのところは意図的にユルくしてます。ウチの現場の方が明るいし楽しげです。
安藝
そんなことはないよ(笑)!
MAX渡辺
やっぱり好きな人たちが集ってるんで、もうちょっとやりたいってときはもうちょっとさせてあげたいんですよ。
安藝
全然やらせてますけどね。
MAX渡辺
そこは僕ら両方とも、間違いなくやらしてる方だと思いますよ。

─締切がきたらクリエイター側が完成度を詰めたくても、バッサリきることもありますか?

安藝
これ以上引き伸ばしてもよくならないというときは、そうですね。この方向性に正解は無いというか、大きな変化は無いなというときは止めちゃいますけど、もうちょっと早い段階でそれができるんだったらガバっと変えちゃいます。
MAX渡辺
まさにその通りで、ちまちまと枝葉末節を変えたところで本当の意味で良くなるってことはない。大事なのは一番最初の段階であるコンセプトだったり位置関係だったりで、そこで気付けなかったら大体は凡作になる。でも残念ながら僕らが見て凡作だと思っていても出さなきゃいけないという事情はあるんで、そこは心を鬼にしないといけない。
安藝
最終的なアレンジやキャラクターの人気とマッチしていれば、どうかな〜と思ってる商品でも大ヒットすることがあるんですよ。そこは複雑な気持ちになりつつも、まぁ良かったなと。タイミングが大事なものでもあるし、キャラクターのどこを読み取るかっていうのが造形側の思いとファンの思いとがズレてたりすることもあるので。「コレでいいんだ」と思うこともあるし、「コレがなぜ売れない」とみたいなのも。
MAX渡辺
造形側はすげぇーって言ってるのに、周りは「ハイ?」みたいな時は往々にしてあるので。
安藝
良いなら買ってほしいんですけどねぇ…(笑)。

─自身の社風や経営者としてのキャラクターも異なるお二人ですが、マックスファクトリーとグッスマの二社がうまく関わっていけている秘訣のようなものはありますか?

安藝
必要以上に関わらないことじゃないかな?
MAX渡辺
確かに(笑)
安藝
マックスにはマックスの色があるし、お客さんが求めているものや、マックスの中の人がもつ「マックスファクトリーとはなんぞや」という思いみたいなのが色濃くあるんですね。そこはそれで良いと思うんです。
僕たちグッスマが他のメーカーさんと一緒にやるときはグッスマが持っている多様なファンクションをバラバラに使えるんですよ。原型だけのオーダーや生産だけのオーダー、金貸してくれっていうファイナンスやらライセンスとってきてくれっていうのもあるし、プロモーションだけやってほしい、営業だけやってほしい、海外で売ってきて欲しいとか。
僕らは、フィギュアを世に出すための機能をたくさん持っているチーム、という感じ。僕は、フィギュアメーカーというのは規模がデカイ必要はないと思っていて、多様な判断があるほうが良いと思うんです。「そのフィギュア出す?」みたいな。
最近だと「考える人」のfigmaとか出てるじゃないですか。出さないでしょ普通(笑)
MAX渡辺
(笑)
安藝
絶対売れないキャラとか大爆死したアニメのキャラとかもいるわけじゃないですか。でも好きだからやっています。それがもし大きなチームで、稟議書があって「考える人」を出す出さないって会議してたら絶対に出せないんですよ。そういう、意思決定がコンパクトな状態がフィギュアみたいな業界では正義で、チームがたくさんある方がいいと思うんです。面倒くさいところはこっちで引き受けて、クリエイティブみたいなところはそっちで自由にやってください、と。マックスさんはその最たるものだよね。
MAX渡辺
そうだね、うん。
安藝
そこはもう圧倒的な制作力があるからだし、信頼や情熱があるから。どうぞ好きにやって下さいって感じで。もちろん、あんまりな時は、もうちょっとちゃんとしようよって言いますけど(笑)。けどそれはそれで面白いし、お互い必要以上に干渉しないというのはありますね。
MAX渡辺
本当そうですね、グッスマとマックスファクトリーの距離は上手にとってますね。
安藝
でもラインアップの会議だけは毎週やってます。このタイミングでコレが出るよ、とか。
MAX渡辺
連動してますよね。そっちがそのタイミングでこうするならこっちはこうする、みたいな動きもあるので。
あとは気付きっていう面では脳みそがたくさんあった良いし、例えばこのアニメが今こうなっててこのゲームが今スゴイらしいみたいな情報も共有できたら、だったらウチはそれ乗りたい。みたいな話が毎週できるっていう環境は得がたいものだと思いますよ。
安藝
あとは海外戦略とかね。やっぱりある程度規模がないとやっていけないようなことは、まとめてやることで数社分の規模感が出るので、ある種のパワーを発揮できるのはあります。

フィギュアの原型はAIで作られるようになる

フィギュアの原型はAIで作られるようになる

─竣工から約1年半が経った楽月工場についてお伺いしたいんですが、感触や感想はどうでしょう?

安藝
すごくストレートにいうと、予想通りかなと。中国側がもってるノウハウを取り入れて、中国に負けない効率で人の手を使いながらフィギュアを量産していくっていう技術吸収の段階はほぼできてるかなと感じています。
MAX渡辺
単純に、日本でフィギュアを作るぞっていうとその一言に集約されちゃうんだけど、実際のところそんなシンプルなことではなくて。ある部分ではものすごく貪欲な側面があり、ある部分では最初から諦めている部分も含まれてスタートしたので。
やっぱり日本人って、すごいなと思いましたよ。良い面も悪い面もすごく感じる、こだわりがある。クオリティが無駄に上がっていくこととか、中国では絶対にあり得なかったことが起きるんです。あとは集団意識みたいなのも日本人特有の良い面と悪い面がちゃんと見えてくるので、なるほどなぁと。
安藝
最初から働いてた人が1年経ってもまだいるっていうのは、毎年人が入れ替わっていく中国のスタイルとは違いますね。あっちは入れ替わりがあるので、作業を細分化させて、それぞれにあまり長大な作業を任せないようにしてたり。
MAX渡辺
職人化させないっていうか、できないというか。

─ロボット工場長というのは未来の生産現場に向かってのアプローチなんですね。

安藝
職人が職人として成長していくと自分たちの技術に対してストイックになっていくし、その反面冷静になっていくんです。自分がやれることが組み立てられてロジカルになっていく。で、すごい職人であればあるほど自動化可能だっていうケースが多いんです。だけどそこもどういう手順で自動化していくのか、今いる人たちにどういう仕事を与えていけるのか、そういうのも同時にやらないといけなくて、単に仕事を置き換えるだけだと成長がないと思うんです。もっとこうしたいっていう思いはロボットには湧かないだろうし、「もっとキレイに塗りたいんです」みたいな意見は言わないと思うから(笑)。
MAX渡辺
残念ながら言わないね。
安藝
「もっと良い髪の質感があるはずなんです」とか、そういうのは言わない、多分。のちに言い始めるかもしれないけどね。
MAX渡辺
こわいこわい、SFだ。
安藝
だからそういうことのために必要なんですよね、ロボット工場長は。より良いものを、よりエモーショナルに、より心をえぐるような製品を作るために、現場をいかに自動化するかというのは大事かなと思いますね。

─現場がオートメーションされていく一方で、フィギュアそのものの未来はどうなっていくと思いますか?

安藝
2020年くらいはまだ変化し始めるくらいかなと思うんですけど、そこから4、5年くらい経ったらもう原型はAIで作られてると思います。
ゴッホのタッチでAIが絵を描くみたいなのがあるじゃないですか、そういうのと大差ないと思うんです。絵を読み取らせて、○○風に作ってくれってやると彫刻が進んで3Dデータ化されるとかいうのって、それほど大変な話じゃないかなと。
それを誰がディレクションするとか色んな問題があるとは思うんですけどね。そこは3Dプリンターの進化もあると思うんですけど、現状は積層が消えない、色が塗れない。この部分の解決にひとまずはかかってくると思いますけど、これが解決すれば僕らはもう何もやることがなくなって、晴れてレース事業に専念できます(笑)。
MAX渡辺
言いますねー言いますねぇ(笑)。
安藝
でもそういう時代が来るし、僕らはそれをやろうと思っていて。AIなりロボットなりが彫刻から生産までの大部分を担うという事態は、10年以内に来ると考えています。
その時僕らがどんな価値を持っているのかっていうのは非常に興味深いことで、もうやれなくなっているのか、何かしらピボットして上手いことやっているのか。わからないですけど、その方が楽しいですよ。
MAX渡辺
なんか想像はできるね。
安藝
想像はできるし、多分そうなる。ただ、フィギュアっていう小さな市場に対して誰が設備投資や研究開発するのかっていったら多分僕らくらいしかやらない(笑)。

─最後に、お二人の夢は?

安藝
今回のテーマに則したところで言うと、フィギュアの生産自動化は数年でやりたいなと。じゃないとロボット工場長も楽月工場も意味がないと思っていて、このままだと価格もどんどんあがっていくし作れなくなっちゃう。
例えば第3国に持ち込んだところで必ず将来的な市場になるわけで、損にはならない。そこをポジティブに断ち切りながら自動化含めて、安く早く作れる方法を原型も含めて探していく必要があるなと思っています。それができるとフィギュアの世界も変わると思っていて、現状はそこが最大のボトルネックになってるんですよ。作りたいと思っても時間がかかっちゃう。彫刻もそうだし生産についても作ろうと決めてから1年近くかかってしまう。なので「コレを作る!」って決めてから半年後には売ってるみたいな状況までもっていきたい。
MAX渡辺
まぁ段階を追ってね。でもそこを短くしていくっていうのは絶対に必要だよね。ユーザーの心変わりが最近はすっげぇ早い。
安藝
それにあわせて少量多品種もやりたい。3個でも10個でも欲しい人はいるからね。その量でも成立さえすればいいけど、今の方法論では成立しようがない。
MAX渡辺
ある程度のボリュームがないとできないからね。
安藝
数千個、僕らのラインでいうと最低でも5000個はないと話にならないので。これをちょっと、もっとコンパクトに好き勝手にできるようになったらいいのかなって思ってますね。

─MAXさんの夢は?

MAX渡辺
そうですね…。さっきの安藝の話は本当にぼくらの首根っこの部分なので、そこは協力というレベルではなく参画していきたいと思います。
今の話に繋がるところなんだけど、「これは人気があって大体2万人の人がこれくらいの値段で買ってくれる」っていうモノしか僕らは作れないんだけど、さっきの少量多品種というスタイルはまさに僕の欲しいところで。僕もスキモノなのでわかるんですけど、「コレもコレも好きなんだけど、実はコレも好きなんだ!」みたいなものって、世の中に山ほどあるんですよ。
そういったものをどういった形で人の手に届けられるかが自分を含めたテーマなので、「こんなにマイナーなのに作ってくれた」っていう時の驚きと喜びって、むしろ普通に売っているキレイで人気のあるものを得た時よりも大きいんです。そこに関われるといいなと思いました。メーカーとして、ものづくりの人間として言うのあれば、そこがずっとテーマになるのかもしれないと。
安藝
できるかもしれないね、それも。

【あとがき】
前後編でグッドスマイルカンパニーとマックスファクトリー両代表の対談をお送りしました。未来のフィギュアやAIで自動化されるロボット工場など、近い将来の絵が二人にはあるのだと感じさせます。15周年特別コンテンツは今後も続きますのでお楽しみに!

プロジェクトに関する特別インタビューなど、追加情報も随時公開!...