安藝・MAX渡辺がグッスマを語り尽くす(前編)

EPISODE 02

15周年緊急対談!
安藝・MAX渡辺が
グッスマを語り尽くす(前編)

2016. 06. 28

【MAX渡辺とマックスファクトリー】
マックスファクトリーは、1987年の設立から美少女フィギュアや合金トイなどを企画・制作をしてきた企業。ガレージキットメーカーとしてスタートした当初から現在まで数多くの製品を世に送り出している。マックスファクトリーの代表取締役 渡邊 誠(通称MAX渡辺)は、グッドスマイルカンパニー安藝と親交が深く、旧知の仲。
2008年から展開している「figma」シリーズは、マックスファクトリーが企画・開発を行い、グッドスマイルカンパニーが販売を行っており、手頃な価格とクオリティの高さから人気商品となっている。

15周年という大きな節目を迎えたグッドスマイルカンパニー。ここに至るまでにはどんな思いがあり、どんな出来事が今のグッスマを築き上げてきたのか。

その胸中を存分に語ってもらうべく、グッドスマイルカンパニー代表 安藝貴範の盟友としても知られているマックスファクトリーMAX渡辺さんとのスペシャル対談が実現しました。

共にフィギュア業界を強烈に牽引してきた二人にとって、15年のあゆみ、そして未来のあゆみはどのように映っているのでしょうか。前後編の2本でお届けします!

煽るのが大好きな安藝とMAX渡辺の出会い

─これまでの15周年を振り返った感想を聞かせて下さい。

安藝
あまり意識がないというか、パンチドランカーみたいな状態のまま来ちゃったイメージが強くて、何か成し遂げられたとか、今後どうしようとかをまだ掴み切れてない感じがしますね、正直な話。ぼんやり15周年が過ぎました(笑)。
MAX渡辺
でもあっという間だったよね。
安藝
15年経ったということは本当に信じられないですね。何かを目指して走ってきた感じがないのがマズいなと思いつつもそれがカラーだったのかなぁと。
MAX渡辺
へぇー。
安藝
でもそういうところは実際にあるかなと。グッスマがタレントマネジメントみたいなところからスタートしてるというのもあって、誰かをサポートしたり、バックアップする仕事が多かったんですよね。才能がある、努力もできる、情熱もあるっていう人たちが浮かばれてないってのが気にくわなくて。そういうクリエイターの人たちには「もちょっとちゃんとしてみようか!?」みたいな人も多いじゃないですか。
MAX渡辺
何かが欠けてるんだよね。
安藝
秀でてるものを持っている反対側で、そうじゃない部分があったり。僕はそういう人たちが大好きなんですよ。「こうすればいいのに」っていうのが周りから見ればわかるのに。そういう人たちは互いの評価を気にしてることも多い気がします。特にクリエイターさんは。お客さんを意識するのはもちろんあるんだけど、あの人に認められたいとか、原型師さんだと原型師同士の評価が一番気になったりとか。

MAX渡辺
そういうのは気にするね。
安藝
それは良いことだと思うんです、ライバルとして、尊敬の対象として。でもその先に僕たちが好きなことをずっと続けるためには、誰かにそれをサービスとして買ってもらうとか、買ってもらった結果として実績なのかお金なのかを得て、そこで次の選択の自由を得る必要もあると思うんですよね。そういったマネジメントに集中するのは比較的得意かなと思ってますし、その要素が僕達の価値になっちゃってるので。でも15年経ったし、僕らも誰かに助けられたいなと(笑)
MAX渡辺
え、そっち行く?(笑)
安藝
作家さんたちと一緒にいると僕らもすごく影響を受けて、色々足りてないんじゃないかなと思うようになるんですよね。そこは15年たって面白くなってきたところでもあるし、見直す節目でもあるかなと。
MAX渡辺
でもまさにサポートという部分は彼の一番の持ち味ですね。グッドスマイルカンパニーとマックスファクトリーが出会って、「MAXってこんなことできるのに、そんなところでくすぶってるんですか!?」みたいな事を言われて。
安藝
(笑)
MAX渡辺
でも確かにそうだなと。じゃあどうすればいいの!? っていうところからスタートしてるんですよね。
安藝
煽るの好きなんですよ(笑)。

お互いの第一印象は最悪。「こいつとは仕事はしない」

─お二人の出会いは1998年に安藝さんが始められた「コントンタウン」というキャラクターショップとのことですが、その時も安藝さんはMAXさんに対して先ほど仰ったような思いを抱いていたんですか?

安藝
いえ、ぜんぜん、ぜんぜんないです(笑)。
MAX渡辺
全否定って!
安藝
バンプレスト時代に「コントンタウン」を作らなきゃいけないってオーダーを受けて、その時にプラモデルのスペースを作ることになったんです。そしたらプラモデルのカリスマがいるということで紹介してもらったのがMAX渡辺さんでした。でもその時はいい大人がガンプラを作って偉そうにしてるのが信じられなかったです。
MAX渡辺
(笑)
安藝
もう考えられなかった。僕は渡辺さんがプラモデルの偉い人だって聞かされてて、開発者だと思ってたらそうじゃなくて作る方の人だったんですよね。で、ものすっごく偉そうなんですよ、態度が。ね?
MAX渡辺
まぁ、とりあえず僕はこのあと反論をするわけなんですけど。

安藝
(笑)。

もう「なんで俺がこの人の相手をしなきゃいけないんだ」ってくらい若干反感を感じていて。で、思考が戻っちゃうんですよ、プラモデル作るのは偉いのか!? って。30越えてプラモデル作ってるぞって。
MAX渡辺
メーカーやってるって(笑)。でも安藝もすっごい態度デカいんですよ。なんかこう、「ですが何か?」みたいな感じで、「やらせてやるから来れば?」みたいな、ものすっごいお互い印象悪かったですね。
安藝
プラモデル作ればいいんじゃないですか、いい年して。みたいな(笑)
MAX渡辺
やんわりと言ってくるんですよ。なので絶対にコイツとは仕事しないだろうって思ってました。だから無理難題をふっかけてコイツとは仕事しないようにしようって思ったら、それを受けてきたんですよね。
安藝
「コントンタウン」の地下に塗装ブースを作ってくれって話をされたんですよ。大工事だったんですけどなんとか完了して、ハイ言う通りにやりましたよ? あとはあなたがやるだけですよ?って(笑)。
MAX渡辺
ちょっと脚色入ってるけどほぼこの通りですよ(笑)。そうなったらもうやるしかないなと、退路を断たれてしまったわけですから。
安藝
退路断つの大好きです。
MAX渡辺
で、毎日僕がそこにいるわけですよ。そしたらバンプレストの上の人たちが「どうもMAX渡辺が毎日いるらしいぞ」との噂を聞きつけて、みんなが名刺を持ってやってくるんですよ。うちの工房にフィギュアを発注したい、フィギュア制作の力が足りないって、バンバン仕事がきましたね。
安藝
バンプレストのプライズフィギュアが急激に評価を得てきたのはそういう事情もあるかなと。ガレージキット的な造形がプライズの原型にやってきたというか、プライズフィギュアの原型のターニングポイントだったと思います。
MAX渡辺
トイからフィギュア、いわゆるホビーに移行したなと。
安藝
より表現の強いものが出始めて、それが良かったんだなと思います。

中国へ行って、もっとよくなる。もっとやれると感じた

─2001年当時はボトルキャップやアニメ映画などが広まってきたころですが、そういった要因が後押しになった印象はありますか?

安藝
フィギュアという単語がフィギュアスケートの知名度に近づいたというか、「フィギュア=立体物」みたいに認識される時代になってきたなとは思いましたね。海洋堂さんの大躍進のおかげです。それもあってコンビニのようなところでも造形力で勝負できるものが手に取られるようになってきたかなと。マックスファクトリーも後追いですけど食玩をはじめてますね。
MAX渡辺
そこでいうと僕らが食玩を始めたことで手に入れたもので何が大きいかっていうと、中国という製造インフラの実態に触れたというのはものすごく大きい。そこにリーチできていなければ今は無いし、あの時に実際に二人で中国にいってすったもんだしたという経験、そこで得た知見やコネクションはかなり大きいですね。

安藝
やっぱり中国でも奮闘している人たちがいて、安く大量にハイエンドなものを造ろうとしているんですけど、でもそれらは全て相反関係にあるものだから上手くはいかないんですよ。誰かに押し付ける、トラブルがおきる、妥協するみたいなのが繰り返し起こってて、あぁこれは大変だなと僕らも感じました。

でも僕は冷静に見てて、「この人たちよりかは上手くやれる」って感じたんです。国も違うからお互いの主張が全く噛み合ってないんですけど、この状況は僕らが立ち入るスキになるというか、もう少し冷静にやれば上手くいくんじゃないかなと。恐ろしさも感じたけど自信も多少はあって、やがて僕らは直接中国の工場で生産を始めるようになりました。
MAX渡辺
その現場を見て僕らは中国とやろうと思ったし、やれる、もっとよくなると思ったんですけど、そうは思わなかったメーカーもいたんです。僕らは中国の工場と切磋琢磨しながらクオリティを上げる方向に進んでいったんですけど、他のメーカーはハイクオリティさを求めなかったりとかして。それは今にして思えば、例えば今ある美少女フィギュアの美麗な面相であるとかグラデーションであるとかは、他のメーカーも手に入れられたはずのメソッドであり環境だったと思うんですよ。
安藝
どの業界でも同じだとは思うんですけど、当時何も持ってなかったことが、僕たちの強みだったんだと思います。失敗が判断に入ってないというか、会社が潰れるリスクとかを考えてない。
MAX渡辺
いやいやいや(笑)。
安藝
品質を上げるための注文を工場にすると、どうしてもお金がかかってしまう。でも当時の僕たちは恐れてなかったんです。かかったならその分たくさん売ればいいし、とか、ありもしない解決策を考えてましたけど、階段を一歩あがるトライを工場側もしてくれたんだと思います。もともと製品を作るノウハウはあるので、じゃあ僕らがそこに+αで求めるのが清潔感であったりとか、緻密さ、キャラクターの再現性だとか、工場側だけでは判断しづらいファジーな部分。そのあたりがストレスになるんですよ。でもそこは情熱とか、お金は払うから、みたいな姿勢でなんとかしていました。お金に関しては怪しかったけど(笑)。
MAX渡辺
払えなかったのかよ(笑)。
安藝
そのあとマックスファクトリーで合金トイを作ることになって、「MAX合金ガオガイガー」っていう大変な原型ができて、これを中国で量産することになりました。開発費の元を取る逆算で、とりあえず5000個発注しようってなって、かかるお金が5000万円ほど必要だったんですけど、マックスとグッスマ合わせても2000万円くらいしかもってなくて、でも発注しちゃえって(笑)。
MAX渡辺
夢だったしね(笑)。
安藝
売れないと会社トぶけど、もういいかって(笑)。
MAX渡辺
あの時はいつになく安藝が真剣でしたね(笑)。
安藝
ほぼ中国にいましたからね、僕は(笑)。

売れないと困るし、すごいものを作ってる実感もあるので、情熱も溢れるくらいありましたね。

ウェブやテクノロジーの力がフィギュア業界を発展させた要因の1つ

安藝
当時はメーカーのホームページというのもほとんどなくて、あっても一応ありますみたいなページが多かった。僕はネットテクノロジーやガジェットが大好きなのでウェブページも自分で作ってました。まだブログも無い時代だったんですけど、ガオガイガーの開発記を毎日更新してたんですよ。そしたら結構ウケがよくて、ウケがいいとこちらも頑張っちゃう。なので、ウェブを上手く使うっていうのはそのあたりの経験から僕たちの強い武器になりました。デジカメも高性能になってきたタイミングでしたね。

─テクノロジーの力も上手く利用していたんですね。

安藝
偶然ですけどね。デジカメの進化は強烈でした。

よくできたフィギュアは、適当に撮影しても良い写真になります。しばらくしてフィギュア写真ブログやレビューメディアというのが乱立してきて、彼らはそこでフィギュアの写真を魅せつつアフィリエイトの収入を得て、また新しいカメラを買い、新しいフィギュアを買う。そういう動きがフィギュアを盛り上げてくれました。
MAX渡辺
大手のフィギュア情報サイトにどういう風に取り上げられるかが僕らの売り上げにかなり大きな影響を与えていた時期ですよね。
安藝
そのあたりはある種意図したところもありますけど、時代にも押されつつブログやメディアがフィギュアの急激な発展につながっているかなと。
MAX渡辺
間違いないですね。
安藝
カメラの解像度も非常に高くなり、細部まで撮影されてアップされるのでフィギュアの生産精度も上げなきゃいけないんですよ。工場の開発チームも日本のフィギュアレビューブログはよく見てて、「あーここつっこまれたわー。やっぱりなー」なんて会話をしてました。
MAX渡辺
あとはネットでモノを買うというのがその当時からすごい普及しだしたのもありますね。僕らが一番始めに作るデコレーションマスター(デコマス)と呼ばれるフィギュアの元となる完成品があって、それを元に受注をとるんですけど、買って見たら思ってたのと違うといわれることもあって(通称「劣化」)。だから、フィギュアって店に行って実際に見て買うものだったんです。でもデジカメの精度が上がり、インターネットでモノを買う、インターネットで情報をやり取りするというのが急速に発達した中で、フィギュアを買うのも「店に行って見なくても買っていいもの」としてのブランディングがすごく大事になってきました。

そこに関してマックスファクトリー、それからグッスマは、安心だと。このメーカーのフィギュアは「見たものがそのまま来る」と。そこに僕らは相当注力をしたんですね。デコマスと差がないように。それはただの努力ではなしえなくて、例えば生産ラインで何か起こったら劣化するじゃないですか。そうじゃなくて、劣化も見越した上で設計をするということに僕らは気付いたというか、より失敗しにくい形状を持ちつつも可愛く仕上がる、みたいな部分を意識しました。

─今まではそういった部分はあまり意識されませんでしたか?

MAX渡辺
そうですね、もっと造形への意識が強かった。より良いかたちを追い求めて、こんな風にしたら良いんじゃないかとかなるんだけど、実際に造形は良くても製造してみたらズレやすいとか。経験があったからこそ意識するようになりましたね。
安藝
フィギュアをどう流通させられるのかも大事になってきます。僕らのスタートは模型業界なんですけど、フィギュアっていつ売れてもいいけど、いつ売れるかわからないんですよね。
MAX渡辺
プラモデルからスタートしてるんでね、売り場のベースとして。
安藝
メーカー、問屋、小売店さんがあって、それぞれにリスクがあってリスクに応じたマージンがある、という風に設計された業界なんですよ。メーカーは開発リスク、問屋さん小売店さんは在庫リスク。

でも僕たちのフィギュアはキャラクターフィギュアということもあって、なにが売れるかわかりにくいし、足が早い。瞬間的なビジネスでもあるんですね。そうなるとお店も問屋さんも在庫を持てなくなるんです。そこが僕たちのビジネスの一番のネックだったんですよ。そこを解決しなければならないとなって、僕らがとった方法というのが、どの商品がどれくらい売れるのかを事前にお店側にわかってもらうということなんです。

そのためにチラシを置いて減り方を比べてもらうとか色々やってもらったんですけど、どれも直接的ではない。そこで最終的にとったのが、お客さんに予約をしてもらって、予約の数が多い少ないで判断してもらおうと。予約が50個入った商品は52個仕入れて、100個入った方は思い切って200個仕入れるか、みたいな。そうなるとお店側は一生懸命予約をとろうとしてくれるんです。

すると次のネックは予約した数を配荷できるかなんですよ。予約はとることもあるけど、数は保証しませんというのがこの業界だったので、予約をとった分お渡しします、なんとしても絶対に渡しますというのが、一番のチェンジだったと思います。

かつ予約をとる限りにおいて写真と実物が違うと店頭が大変なことになるので、そこはできるだけ近づける努力を生産側でする。そして受注した分の量産も必ずする。これは工場側にとって大変な負担です。精度も上げなきゃいけないし、受注をとるまで数がわからないから生産ラインの予定が組めない。両方に負担がかかるんですけど、それを無理にでもやることで、お客さんが予約をしてくれる。この予約も店頭でやってたんですけど、一気にシーンを変えたのはネット通販ですね。

後編では、グッスマがこれから取り組もうとしている「未来のフィギュア」についての記事となる予定。未来のフィギュアはどのような形となっているのか。ロボット工場長が取り組んでいく生産現場はどのような形を想定しているのか。二人に質問をぶつけてみました。人工知能や、仕事が自動化されていく昨今。グッスマファンならずとも見逃せない内容となっています。後編をお楽しみに!

プロジェクトに関する特別インタビューなど、追加情報も随時公開!...